バンコクの旧市街、バンランプー地区。カオサン通りの喧騒から少し歩いた交差点の角に巨大な廃墟「旧ニューワールド・デパート(New World Shopping Center)」は建っている。ふだんは高いトタン壁に覆われ、その内側を窺い知ることはできない。しかし、アート系イベントの時にだけ、この禁断の扉が開かれ、秘密の迷宮へと足を踏み入れることができるのだ。2026年1月末~2月8日まで開催されていた年次アートイベント「バンコク・デザイン・ウィーク(Bangkok Design Week / BKKDW)」においても、数ある展示会場の中で最も注目を集めていたのが、この旧ニューワールド・デパートでの展示だった。バンコクの中心地だった旧ニューワールド・デパートの数奇な運命。一時は魚の住む迷宮として有名に2026年のバンコク・デザイン・ウィークに限らず、この旧ニューワールド・デパートが展示会場に選ばれると、地元の若者たちや海外のアート好きから高い注目が集まる。それは、1980年代までこのニューワールド・デパート周辺がバンコクで最もモダンなショッピングエリアだったという物語性によるところが大きい。かつてここは現在のサイアム・パラゴンのような存在として若者や家族連れで溢れる場所だったのだ。しかし、1990年代の事故、そして違法増築を追及される事件などが重なり、その後の解体作業を経て、建物は屋根のない廃墟となる(※現在は簡易的な屋根が設置されている)。雨水が溜まった地下にボウフラ対策として魚が放流された時などには、「魚の住む迷宮」として世界的に有名になった。何しろバンランプーの人々にとって、ここは自分たちの街が最も輝いていた時代の記憶が刻まれた特別な場所だ。アート的なアプローチにより、この負の遺産が「人々の記憶に蘇って来る」ことに大きな意味はあった。以来、ここはバンコク・デザイン・ウィークのようなアートイベントが開催される時に、最も重要な展示会場として度々輝きを取り戻すこととなる。「Myarab(オジギソウ)」に込めた回復力と、「呼吸」というメタファー今回、この旧ニューワールド・デパートの蘇生を手掛けたのは、ウィット・ピムカンチャナポン氏。彼はタイを代表するメディア・アーティストで、過去にも同会場で印象的な作品を手掛けてきた。2026年のバンコク・デザイン・ウィークでは、この建物の吹き抜け部分にに『Myarab(Myarab - Fawn)』という、高さ約8メートルの巨大なキネティック・スカルプチャー(動く彫刻)を出現させ、大きな話題を呼んだ。「Myarab」はタイ語で「オジギソウ」を意味する。ここがかつて繁栄したデパートであった頃の「人々の喜びや記憶」を呼び起こすよう、まるで呼吸をするように上下に揺れ動くのがおもしろい。激しく動くのではなく、繊細で優しい動きが特徴で、廃墟の静寂と対比させることにより都市の再生や生命の鼓動を表現している。聞くところでは、テレビ1台を稼働させるくらいの低電力(100ワット程度)でこの巨大なスカルプチャーを動かしているのだそうで、エコロジー意識も高い。イベント期間中には、この地域を代表する芸術大学、シラパコーン大学の学生を中心とするミュージシャンたちがバンランプーのDNAを感じさせる音楽を奏で、巨大オジギソウの動きとシンクロさせるコラボレーションも披露された。残念ながら筆者はその様子を見ることはできなかったが、その代わりに巨大オジギソウとそれを取り巻く廃墟の写真を多めに撮影してきたので、その一部をご覧いただきたい。バンコク・デザイン・ウィークなどイベント時だけ入場できる神秘性ふだん立ち入ることのできない廃墟や古い建築に足を踏み入れることができるのも、バンコク・デザイン・ウィークのようなアートイベントがあればこそ。当イベントは毎年1月~2月ごろにかけて開催されることが多い。今年は「DESIGN S/O/S」というテーマが掲げられ、歴史的負債と捉えられがちな廃墟をデザインの力で蘇らせる展示がバンコク旧市街各地で設けられていた。廃墟を「負」から「地域のシンボル(資産)」へと転換させる有機的な試み――。この旧ニューワールド・デパートの中だけでも様々な展示が行われ、夜遅くまで客足が途絶えることはなく、今のバンコクのアート熱を感じることができる要注目イベントだ。毎年この廃墟が会場に選ばれたら海外からさらに多くのファンが来訪しそうな気もするが、いつ入れるかわからない今の状態も、聖地としての神秘性をキープすることに大きく寄与しているのかもしれない。%3Ciframe%20data-testid%3D%22embed-iframe%22%20style%3D%22border-radius%3A12px%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fopen.spotify.com%2Fembed%2Fepisode%2F1YUnV4sBy1AjoTHIuzizfQ%3Futm_source%3Dgenerator%22%20width%3D%22100%25%22%20height%3D%22352%22%20frameBorder%3D%220%22%20allowfullscreen%3D%22%22%20allow%3D%22autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20fullscreen%3B%20picture-in-picture%22%20loading%3D%22lazy%22%3E%3C%2Fiframe%3E旧ニューワールド・デパートやバンコク・デザイン・ウィークのお話は、Podcast番組でもテーマとして取り上げました。旧ニューワールド・デパート(New World Shopping Center)228/3 Chakrabongse Rd, Talat Yot, Phra Nakhon, Bangkok 10200プラアーティット船着場(Phra Arthit Pier)近く※イベント開催時以外は閉鎖中%3Ciframe%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.google.com%2Fmaps%2Fembed%3Fpb%3D!1m18!1m12!1m3!1d3875.2807941580913!2d100.4957410758492!3d13.761932986630978!2m3!1f0!2f0!3f0!3m2!1i1024!2i768!4f13.1!3m3!1m2!1s0x30e29900128ddea7%253A0x94770b2799cf7c19!2z44OL44Ol44O844Ov44O844Or44OJIOODh-ODkeODvOODiOi3oeWcsA!5e0!3m2!1sja!2sth!4v1770718118791!5m2!1sja!2sth%22%20width%3D%22600%22%20height%3D%22450%22%20style%3D%22border%3A0%3B%22%20allowfullscreen%3D%22%22%20loading%3D%22lazy%22%20referrerpolicy%3D%22no-referrer-when-downgrade%22%3E%3C%2Fiframe%3Eバンコク旧市街特集ページは↑バナーをクリック!