バンコク旧市街、チャルンクルン通り沿い。元国鉄中央駅だったフアランポーン駅から少し南へ下り、タラートノーイと接したエリアに位置するモダン・ランナー・キュイジーヌ「マーテ(Maaterr)」。十数年前には流行りの店などほぼなかったこの界隈にも、最近では日本の雑誌に紹介されるような飲食店が増えてきた。マーテは前身である「マザーレストラン(Mother Restaurant)」時代を含むとすでにこの地で4年少々の歳月を数え、バンコク旧市街ブームの中で息の長い人気店だ。チャルンクルンの古い街並みに灯る、モダン・ランナー料理の誘惑2025年末に看板を今の名のものにかけ替え、少しイメージを変えたが、タイ北部ランナー料理の伝統の上にシェフの独創性・現代性を掛け合わせるスタイルは依然健在だ。トレンドエリアのど真ん中にありながら地に足の付いた落ち着きがあり、フレンドリーなスタッフの接客も相まって、安らぎや居心地良さも感じられる。聞けば、新しい店名は「おいでよ!」と誘うような意味の言葉なのだそうで、フレンドリーさはこの店の身上とするところなのかもしれない。また、壁に飾られた絵画には、この界隈のグラフィティアートでもおなじみの「大きな目をした飛べない鳥」の姿があり、これはチャオプラヤー川沿いの地元出身現代アーティストの手によるものだったりもする。このアートの話は追って本稿後半で触れることとして、まずは気になる料理から紹介していこう。味覚の再構築:トマトが繋ぐ、計算された繊細なブレンドのスープ、カレー、ペースト類タイ北部ランナー料理と言えば、皆さんはどんな料理を思い浮かべるだろう? 私の場合、カオソーイ、ナムギアオといった麵にかけるスープ、あるいはゲーンハンレーのようなカレー系の料理に目がない。特に当店での食事においてはトマトを使ったメニューに魅力を感じている。ココナッツミルクを使った甘めの味わいよりも、ハーブやスパイスの香りの奥にトマトの存在が見えて来るような、そんな塩気やピリッとした辛味を求めてここに来るフシが強い。となると、メインに据えるのはまずゲーンハンレー。そこから逆算して前菜なども決める。アラカルトで自由気ままに注文していく、そんな気取り過ぎないムードがお気に入りなのだ。ホタテの北タイ風チェリートマトサラダチェンマイを含む北タイの山岳地帯は、涼しい気候を利用したトマト栽培が盛んな土地だ。在来種の「マクアテート・ソム」と呼ばれるミニトマトは酸味の強いものだったが、近年では品種改良され「チェンマイ・チェリー・トマト」と呼ばれるようなかなり甘味を強く感じる品種も登場している。伝統的なランナー料理に現代的要素を掛け合わせる当店が、このような食材を見逃すわけがない。そこでまず前菜にオーダーしたいのがレギュラーメニューの「北タイ風チェリートマトサラダ」(140バーツ)なのだが、この日はこの進化系に当たる「ホタテの北タイ風チェリートマトサラダ」(240バーツ)がスペシャルメニューとしてリスト入りしていた。このような一期一会は大切にしておくべし、という訳で迷わずホタテ入りの方をチョイスした。この後にも登場するトマトをまず生で味わう予告編として、そしてパクチーやレモングラスといったハーブへの感度を高めるためにも、まずはこのトマトのサラダから入るのが個人的おススメとなる。トマトの甘さとハーブのピリッとした風味のブレンドに少しずつ舌を慣らしていくのだ。豚トロ焼きとスパイシートマトのディップソース続く二品目は、普通に考えれば北タイらしく「サイウア」と呼ばれるソーセージや「ラープ」と呼ばれるひき肉ハーブサラダでも注文すべきところだろう。しかし、今回はあえてセオリーを外して「コームーヤーン」つまり豚トロ焼きにしてみた。タイ料理に多少明るい方からは「それは北部料理ではなく東北料理だろう!」というツッコミが入ることと思う。しかし、当店では東北料理もいくつかメニューリストに並んでおり、私としてはそこがお気に入りポイントでもあるので、これはあえてのチョイス。そんなわけで、「豚トロ焼きとスパイシートマトのディップソース」(380バーツ)で、カオニャオ(もち米)をほおばることとなった。豚トロ焼き、いわゆるコームーヤーンの焼き加減の絶妙さは言うに及ばず。当店で食べるコームーヤーンは東北料理の「ジェーオ(แจ่ว)」をディップするところがひと味違う。それもトウガラシ、ニンニク、エシャロットなどと、前段のトマトを石臼で叩いてペースト状にしたジェーオだ。前菜のサラダで見せた表情とはまた別の一面を見せてくれるチェンマイ・トマト。辛さの中にほのかなトマトの甘さを感じるペーストにより、大好きなコームーヤーンがさらに進化する。ついついカオニャオ(20バーツ)を追加注文してしまった。豚三枚肉のゲーンハンレーここで満を持して登場するのが「豚三枚肉のゲーンハンレー」(320バーツ)。滑らかな舌触りに仕上げられていることは写真の見た目からも明らかかと思う。当店にはスープ類、カレー類で魅力的な品が他にもあるのだが、私が定期的に食べたくなるのはこのゲーンハンレー。ミャンマー料理にルーツを持つこのカレーはココナッツミルクを使用せず、クミン、コリアンダー、ターメリックといったスパイス使いが肝となる一品で、特に当店のものはどこか日本のカレーに似た親しみを覚える。チェンマイトマトの風味をきちんと感じ取れる味付けにしてくれているのがポイントで、なかなか丁寧に作られたゲーンハンレーだ。メニュー表には「ラム肉のゲーンハンレー」と書かれているが、ラム肉がない時にはこのように豚三枚肉などで作ってくれる。このシンプルなカレーの上に鎮座するホームデーン(エシャロット)のアチャールがまた絶品で、許されるならこれを追加注文したい衝動に毎回駆られるのだが、実際にお願いしてみたことはない。とにかくそれくらいカレーとの相性抜群のアチャールなので、友人や家族と来た日にはアチャールの奪い合いとなる。シメはココナッツアイス酒を飲まなくなった人間とって、食後のお楽しみはデザートだ。当店ではその日ごとに「今日のアイス」(100バーツ)が用意されていて、運が良ければここでココナッツアイスと遭遇できる。タイ料理と言えばココナッツミルク! というイメージをあえて封印し、ストイックにココナッツミルクなしのランナー料理を楽しんできた後のココナッツアイス。それまでのココナッツミルク断ちが効いている分、ココナッツミルクがいつもの倍くらい濃厚に感じられる。たぶん気のせいだと思うが。2階にはバーカウンターもあり、カクテルやナチュラルワインも好評お酒のお好きな方であれば、バーカウンターのある2階席を予約してみるのも一興かと思う。6種類のシグネチャーカクテルが自慢とのことで、そちらもなかなかタイらしい個性が光るものらしい。またワインを好む方々であれば、ナチュラルワインの品ぞろえにも魅力を感じるはず。チャオプラヤー川沿い生まれの地元アーティストの絵画が、インテリアの決め手最後に当店のインテリアで見逃せない“絵画”について紹介しておきたい。タラートノーイやオンアーン運河沿いなど、バンコク旧市街でよく見かける目の大きな鳥のキャラクターに見覚えのある方も多いことと思う。これはアシン(ASIN)というタイの人気アーティストの手から生まれたキャラクターで、下層階級の象徴として描かれたものなのだとか。翼があるのに飛べないという矛盾を通して、社会における不平等を表現している。アシンはチャオプラヤー川沿いの生まれで、当店が建つチャルンクルン通りやタラートノーイといったエリアが産み出した地元ヒーローとも言える存在だ。そんなアーティストたちを支援する姿勢もまた、当店が若い人々に支持される理由の一つなのかもしれない。マーテ(Maaterr)811 Charoen Krung Rd., Talat Noi, Samphanthawong, Bangkok 10100最寄り駅は、地下鉄フアランポーン(Hua Lamphong)駅OPEN: 17:00-0:00 Tue-Sun (Closed on Mon)Tel: 082-229-4261(英語・タイ語)※予約をお忘れなく!https://www.instagram.com/maaterr.bangkok/https://www.facebook.com/maaterr.bangkok#%3Ciframe%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.google.com%2Fmaps%2Fembed%3Fpb%3D!1m18!1m12!1m3!1d484.4643539207249!2d100.51389603374038!3d13.735707133575366!2m3!1f0!2f0!3f0!3m2!1i1024!2i768!4f13.1!3m3!1m2!1s0x30e299903bbe98cf%253A0x8a3faadbd99a7066!2zTWFhdGVyciA6IOC4oeC4suC5gOC4leC5ieC4reC4sA!5e0!3m2!1sja!2sth!4v1772612210855!5m2!1sja!2sth%22%20width%3D%22600%22%20height%3D%22450%22%20style%3D%22border%3A0%3B%22%20allowfullscreen%3D%22%22%20loading%3D%22lazy%22%20referrerpolicy%3D%22no-referrer-when-downgrade%22%3E%3C%2Fiframe%3Eバンコク旧市街ページは↑バナーをクリック!