タイでの生活は、新しい文化や言語に触れる素晴らしい機会である一方、子育てにおいては日本と異なる悩みや葛藤がつきものです。「子どもの日本語が遅れている気がする」「インター校と日本人学校、どちらがこの子に合っているのか」「異国の地で、親としての自信を失いそう…」当サイトの教育記事ではそんな保護者の皆様の切実な声に寄り添い、専門的な視点からアドバイスをお届けしています。毎月の連載でお悩みにご回答いただいているのは、完全個別指導塾「あせすトンロー個別学習院・あせすプロンポン個別学習院」で責任者をお務めの上田数馬先生。約20年、関東の大手学習塾で講師、教室長として、延べ2000人あまりの子どもたちを指導して来られた後、タイ・バンコクにおいても個別指導を通して多くの子どもたちと接して来られた経験をお持ちです。海外で暮らす子どもたち、そして彼らの教育に思い悩む保護者の皆様と日々接して来られた上田先生は、海外子女教育、とりわけタイにおける子女教育の専門家です。本稿では現地にお住いの皆様から寄せられる相談内容を4つの主要なテーマに整理しました。今のあなたに必要なメッセージをここから見つけていただけますように。(編集部)1. 【最重要】言語教育とバイリンガルの壁:インター校家庭の葛藤タイのインターナショナルスクールは、多国籍な環境と質の高い教育が魅力です。しかし、そこには「言語教育」という非常にデリケートな課題が潜んでいます。母語の土台が「思考力」を決めるまず、子どもが思考の礎とするための母語(第1言語)を決め、ふだんからその言語を用いて物事を考えることができるような環境を作ることが大切です。母語は英語でも日本語でも構いません。インター校に通い、日常会話が英語になると、一見「バイリンガル」になったように見えます。しかし、注意が必要なのは「日常会話の言語」と「学習のための言語」は別物であるということです。 特に低学年からインター校に通う場合、母語の語彙力や思考力が年齢相応に育っていないと、複雑な概念を理解する力が停滞する「ダブル・リミテッド(セミリンガル)」の状態に陥るリスクもあります。このような状態に陥らないように、ご家庭では意識的に「質の高い母語」に触れる機会を作ることが不可欠です。読み聞かせをしたり、ニュースについて議論するなど、母語での思考を深める時間を確保しましょう。繰り返しになりますが、英語であれ日本語であれ、思考力の土台となる母語が定められていることが重要なのです。英語を第1言語とすべきケースたとえば日本への帰国の予定がなく、インター卒業まで海外にいるご家庭の場合は英語を第1言語とすべきで、日本語はあくまでサブの立ち位置にしたほうが進学がスムーズです。大学受験で日本に帰る可能性があるという方も英語を第1言語にしたほうが有利なケースと言えます。日本語学習も重要となるケース高校途中までに日本へ帰る可能性があり、なおかつタイのインターに通う場合には、学校での勉強では英語を最優先し、同時に日本語の学習も必要となります。このような場合には、インターに通っていても日本語学習の比重を上げなければならず、英語と日本語の両立に苦労するケースも増えます。学習計画の立て方が明暗を分けることもありますので、特に学習塾などへのご相談をお勧めします。関連リンク: インター校の夏休み中、日本の小学校への 体験入学を利用しているのですが… / インターか?日本人学校か?(前編) / インターか?日本人学校か?(後編)「言葉が遅い?」と感じた時のサインインター校低学年の子どもが、日本語も英語も中途半端に混ざってしまったり、抽象的な説明ができなくなったりすることがあります。これは脳内での言語整理が追いついていない過渡期かもしれません。家庭を「一番安心して母語(第1言語)を話せる場所」として機能させることが、結果として第2言語の定着を助けることもあります。関連リンク: インター校と日本の勉強、両立が困難2. 【2~3年の期間限定】駐在員家庭のための「帰国後の学校の準備」日系企業の駐在員としてタイに滞在する期間は、平均して3年前後。この「期間限定の海外生活」において、最も気になるのは「日本への本帰国」に向けた準備です。帰国後の学校選びと「適応」のリアルタイでの数年間は子どもにとって大きな変化を生みます。現地で日本人学校に通っていた場合にはその変化は比較的小さなものに留まりますが、インターナショナルスクールを選択していた場合には特に、日本のカリキュラムや学校の厳格なルールとのギャップに戸惑うケースも少なくありません。 帰国を見据え、いつのタイミングでどの地域に戻るのか、中学受験や高校受験の有無を早めにシミュレーションしておくことが、お子様のみならずご両親の心の余裕にも繋がります。関連リンク: / 日本帰国前の編入準備(前編) / 日本帰国前の編入準備(後編) / 本帰国後の学校選び、受験で焦らないために「レジリエンス」という最高のプレゼント2~3年のタイ生活が「ブランク」となってしまうか「成長の糧」となるかの鍵は、子どもの「レジリエンス(折れない心・回復力)」にあります。 言葉が通じない、文化が違うといった困難を乗り越えた経験は、日本に帰った後のどんな環境変化にも対応できる自信となります。親ができる最大の準備は、先回りして問題を解決することではなく、子どもが試行錯誤する過程を肯定し、支え続けることです。関連リンク: はじめての習い事。子どもが慣れてくれるか心配日本の学習習慣をどう維持するか駐在期間中、タイでの習い事や遊びに夢中になるのは素晴らしいことですが、算数や国語の基礎学力を日本の同学年レベルで維持しておくことは、帰国後のスムーズな合流に直結します。通信教育や補習塾、あるいは家庭での学習時間を習慣化し、日本との距離感を測り続けることが大切です。関連リンク: これから夏休み、今の学習方法のままで大丈夫?3. 子どもの心のケアとアイデンティティ環境が激変するタイ生活。子どもたちは大人が想像する以上に、周囲の期待や環境の変化に敏感です。友人関係: インターナショナルスクールの場合には特に言葉の壁がある中で、友人関係の構築には時間がかかります。「学校に行きたくない」というサインが出た時には、まずはその気持ちを丸ごと受け止めてください。また、日本人学校に通っている場合にも子どもたちを取り巻く人間関係は日本と全く同じようには行きません。日本語を話す年長者、大人と接する機会が少なくなる環境で、人付き合いが限定されているからこその悩みも生じたりします。外遊びの不足: 日本に住んでいるときよりも外遊びをする機会が少なくなり、ストレスを抱えてしまう子もいます。習い事は「勉強系+アクティビティ系(+芸術系)」など、バランスよく組み合わせるとストレスを解消しやすくなります。関連リンク: 4年生から算数をむずかしく感じている。新5年生をいかに迎えるべきか… / 中学受験する友だちとの間に学力差を感じる / 塾も、息抜きの習い事も両立したいけど…4. 保護者のメンタル:親も「チーム」として支え合う海外子育てを成功させる最大の要因は、実は「親の心の安定」です。ママ・パパの孤独を解消する: 相談相手が近くにいない海外生活では、悩みが深刻化しがちです。完璧な親を目指すのではなく、現地のコミュニティや専門のリソースを頼ることをためらわないでください。夫婦の教育方針: 父親は仕事、母親は育児と役割が固定されやすい海外駐在。教育方針のズレを放置せず、子どもの将来像を夫婦で対話する時間を持つことが、家庭の平和に直結します。関連リンク: 周囲に親戚ゼロ。一人での子育てが大変5. 連載バックナンバー一覧あなたの今の悩みに応える記事を、こちらから探してみてください。4年生から算数をむずかしく感じている。新5年生をいかに迎えるべきか… ~勉強嫌いになってしまわないように~インター校の夏休み中、日本の小学校への 体験入学を利用しているのですが… ~語学は長期間にわたる持続的努力に勝るものなし~はじめての習い事。子どもが慣れてくれるか心配 ~外遊びが少ないストレスを克服する習慣づくり~これから夏休み、今の学習方法のままで大丈夫? ~学習の遅れを長期休みで取り戻す~インター校と日本の勉強、両立が困難 ~日本語、英語を両立させるための優先順位の決め方~中学受験する友だちとの間に学力差を感じる ~自分が“できない”と思い込まないための実践勉強法~塾も、息抜きの習い事も両立したいけど… ~ストレス発散にも時間管理が必要~周囲に親戚ゼロ。一人での子育てが大変 ~日本の環境にスムーズに合流するための準備~インターか?日本人学校か?(前編) ~お子様が小学生の場合、インターと日本人学校いずれを選ぶかの判断~インターか?日本人学校か?(後編) ~お子様が中学生以上の場合インター校と日本人学校いずれを選ぶかの判断~日本帰国前の編入準備(前編) ~帰国前数か月の対策~日本帰国前の編入準備(後編) ~帰国前数か月の対策~本帰国後の学校選び、受験で焦らないために ~長期スパンの帰国対策~6. まとめ:タイでの子育てを家族の物語の「輝く1ページ」にタイでの子育ては、時に孤独で、時に不安に満ちたものかもしれません。しかし、ここで悩み、考え、家族で対話を重ねた時間は、必ず子どもの将来の可能性を広げ、家族の絆を深めます。一人で抱え込まず、この「おやこ相談室」の知恵を参考にしながら、タイという素晴らしい環境を存分に活かした子育てを楽しんでいきましょう。