さる3月9日、バンコクで6年ぶりとなるANA寄席が開催された。1999年の初回公演を皮切りに、2019年まで21回連続開催されてきた同イベントは、コロナ禍の影響で2020年から2024年までの5年間、中止の憂き目を見た。この度、ついにバンコクにもコロナ後の日常が戻ったことを告げる、この記念すべき再開公演。高座に上がったのは、2007年の初登壇以来、バンコクのANA寄席に数多く登壇してきた立川志の輔師匠だ。今回が通算12回目の登壇となる。従来、同イベントではホテルのボールルームを多く使用してきたところ、6年ぶりの再開公演は初めて本格的劇場ホールを使用し、最新鋭の音響・照明設備に恵まれたことも意義深い。とりわけ中入り後に登壇した立花家橘之助師匠の浮世節では、歌と三味線の音がホール中に美しく響き渡り、その後に続く真打ち立川志の輔師匠の「メルシーひな祭り」が大いに盛り上がることとなった。歌舞音曲にも並みならぬこだわりを見せる、立川流ならではの公演をまさかタイでも堪能できるとは思わず、きっとこれは公演に携わった方々が大きな手ごたえを感じた会になったのではないかと推察する。遡れば「志の輔らくご in PARCO」など、劇場ホールを使用した公演で記録的な観客動員力を見せ、破竹の勢いでスターダムへと駆け上がって行った若き日の志の輔師匠。その出自から想像するに、やはり劇場ホールへのこだわりは相当強かったのではないだろうか。過去、バンコクで拝見したホテル寄席よりも一層輝いて見えた志の輔師匠の姿に、ついそんなことまで考える記念碑的な公演だったように思う。6年ぶりの渇望感もあってかタイ現地の観客の反応が良く、大いに盛り上がった本公演の音源は、2025年6月以降、ANAの機内放送で聴くことができるそうなので、そちらの方も乞うご期待!