建築家磯崎新は美術館の進化を世代で論評した。美術館の第一世代は「王室コレクション」の一般公開。第二世代は近代絵画を展示出来る抽象的な展示空間「ホワイト・キューブ」。第三世代は作品と場所が密接な関係を持つ「サイト・スペシフィク」であると彼は言う。少し詳しく説明をする。美術館の歴史は意外と浅い。フランス革命を経てブルボン王朝の保有していた膨大な芸術品を一般公開したルーブル美術館を起源とする第一世代。20世紀に入り様々な新しい絵画表現が生まれるとそれに対応した専門の美術館が求められた。特に抽象画の様な作品は古典的な空間との相性が悪い。そこで無機質な白い壁に覆われて、作品や展覧会を臨機応変に行える第二世代がニューヨークのMOMAにて誕生した。90年代の終わりごろからは場所と建築の関係性が重要視されるようになった。ロンドンのテートモダン辺りを起源とした歴史的建造物と現代美術館の融合は都市の固有性に着目をした欧米型「サイト・スペシフィック」である。一方、磯崎新は奈義町における現代美術館において芸術作品と建築が分かち難い状態で融合された別のアジア型「サイト・スペシフィック」を提案した。話をタイに移す。タイ国では国際的な現代美術を展示する美術館がこれまで存在しなかった。ほとんどが王室関連の展示であり、国立美術館やMOCA等もあるが、タイの国内作品が中心であり、ナショナルアーティストの作品は紹介すれど、現代アートに触れられる機会は少ない。BACCはバンコク・ビエンナーレなどを通じて世界的に活躍するアーティストの作品を紹介しており評価は出来るが、あくまで一過性のイベントであり、常設展示をする事はない。そんな中、今年と去年でタイに大きな変化が起きた。民間企業が立ち上がったのだ。タイを代表する企業CPグループの会長夫人であるマリサ氏がバンコクの古い印刷工場を改装して現代美術の殿堂、バンコク・クンストハレを開館した。典型的な欧米型の第三世代美術館と言える。アート・ディレクターは当方の大学時代の先輩のステファノ氏だ。施設自体がかなり広い為に新しい展示ごとに展示空間を拡張する手法を展開しており、展示内容も美術作品の修復を作品とするなど美術館の定義を刷新する世界最先端の試みをしており、第四世代に肉薄していると言える。また、タイの軽井沢的な存在であるカオヤイではアート・フォレストが開館された。ここではカオヤイの自然の中にタイの国内外のアーティスト作品が点在をしており、アジア型の第三世代美術館と言える。オープニング当初は六本木ヒルズにも展示されているルイ・ブルジョワによる「ママン」という巨大蜘蛛風の彫刻があり話題となった。当方もバンコク・クンストハルとカオヤイ・アートフォレストにて茶室を設ける予定であるのでこうご期待を!更に今年の暮れにはクロントイ地区にあった古い工場を改装したDIBミュージアムが開館される予定だ。こちらも欧米型の第三世代美術館である。こちらはOSOTSPAという飲料会社の元CEOだったペッチ氏のアート・コレクションが母体となっている。アートディレクターは日本人の手塚氏だ。ピカソや現代アーティストのダミアンハーストの作品等が展示される予定だ。この様に志のある民間が立ち上がる事でタイの文化が盛り上がる事は大いに良い事だ。これにより、多くの優秀なタイ人アーティストの作品が世界に紹介される土台になると共にタイ人が国内で世界の芸術作品に触れられる機会作りにもなっている。これからのタイの美術シーンの発展が楽しみである。