東アジアや欧米には四季があり、屋外に出て四季の変化を楽しむ事は当たり前だ。歩道際には様々な店が立ち並び歩行者を楽しませる。近年は70年代よりヤン・ゲールが始めたプレースメーキングが普及して車よりも歩行者優先の都市のデザインがされており、歩いて楽しめる都市の魅力は増すばかりだ。 一方、東南アジアでは事情が異なる。元来、東南アジアでは灼熱の中、汗を流しながら、ショップハウスが軒を連ねる道沿いで屋台が立ち並ぶ中で彼らは買い物を楽しんだ。しかし、車と空調設備の普及により事情は一変する。空調の効いた家から、空調の効いた車へ、そして買い物はショッピングモールへ。殆ど灼熱の外気に触れる事無く生活が出来てしまうのだ。その為、タイ人の学生を研修旅行へ連れて行くと、中間期の心地よい季節に屋外で500メートル程度歩くだけで疲れたという不満の声が聞こえてくる… シンガポールの国父であるリー・クワンユー曰く「空調設備は熱帯でも文明が発展出来るように変えてしまった」という。それは作業が出来るオフィス空間のみならず、買い物をする商業空間の在り方もがらりと変えてしまった。60年代終盤から70年代の初めから巨大なショッピングモールが東南アジアで誕生する。最初期の例としては日本人建築家の論理である「コレクティブ・フォーム」を世界で初めて実践したDPアーキテクトによるシンガポールのゴールデン・マイルコンプレックスとポーポーズパーク・コンプレックスが有名だ。何れも街路や広場を巨大な建築空間内に内包した建物となっており、旧来の都市の複雑性を取り入れた建物になっている。バンコクにおいては忘れられた巨匠の一人であるチラ・シラパカノックによるインドラ・スクエアが著名。マーケットが空間内部に内包された建築となっている。この建物はニューヨークのリーバハウスに始まる、タワー部分と基壇部分を融合した建造物の系譜に属しておりタイ・モダニズム建築の基準点と呼んでも良い名作建築である。この様に初期のショッピング・モールは既存の都市の賑わい空間を空調の効いた建物内部に取り込む事から始まった。次第にモールは都市とは関係なく独立した独自の内包された世界を発展させて行く。実はタイのモールは世界的に注目を集めている。それはタイ人の持つ美徳であるプレゼンテーション力の高さと独自コンテンツの豊かさに市井の工夫と適当さが相まって魅力的な商業空間が多数構築された。また、近年は郊外へ延びていた開発から、既に開発された市街地の再開発が進んでおり、都市の魅力を再発見する機会ともなっている。 ここにモールを成立させるうえで重要な要素を幾つか記載する。可視性。吹き抜けにより異なるフロアが視認出来るようになり、より高いエリアに訪問者を誘導できるようになった。また、外部から内部が覗き見れる可視性も歩行者を取り込む装置として重要だ。周遊性。訪問者を迷わせない分かり易いプラニングにより隅々まで訪問者をいきわたらせる。アンカー。人をモールの最深部まで引き寄せる装置で主に映画館、フードコートやレストラン街、スーパーがその役割を果たす。広場。通路同士の接点に吹き抜けと共に広場を設ける事で季節の催しものが開催できる。これにより訪問客がリピート出来るようにするアイデンティティー。モールは何処へ行っても同じような店舗が入っていることがあり、目新しさに欠ける場合がある。そこにしかない店舗、空間設計などの目的地となる差別化が必要だ。下記にタイのモールを紹介する。ターミナル21:BTSとMRTに日本を結ぶターミナル駅と直結したモール。このモールは空港をテーマにデザインをされている。通常モールにおいてはフロアごとに異なる店舗が設けられている。例えばあるフロアは電化製品、別のフロアはレストランのように。これにより、各フロアに行きたくなり探検をしたくなる欲望を誘発させる。また、フードコートが中心部最安値であり、様々なタイプの訪問者が訪れる。アイコンサイアム:ロイクラトンのクラトンという灯篭の意匠に着想をへた巨大ガラスによるジグザグした外装が特徴的。内部は一階が屋外水上マーケットという驚きの構成。中央部には巨大な吹き抜け空間がある。最上階にはミュージアム(機能をしていない)が設けられており周遊性を生んでいる。また、店舗もここにしかない店舗が多数。セントラル・エンバシー:英国大使館の跡地に建てられた高級モール。英国のビクトリア&アルバート博物館の増築をした女性建築家であるアマンダ・レビットによる作品で波打つアルミニウムの外装、有機的で優美な曲線、内外装まで統一された意匠、抑制されたデザイン・コード(いわゆる看板とか店舗の外装の表現のコントロール)、最上階の蔦屋を設計したクラインダイサムによるOPEN HOUSEなど、バンコクのハイエンド層を取り込む事に成功した作品。セントラル・ワールド:モール設計の教科書的な作品。超巨大な平面を有しながら、同時に周遊性を確保している。何度も改装を経ながら理想的なモールの構成を有している。駐車場の上部には巨大な広場が設けれており、ここで様々な屋外イベントを催す事で異なる訪問者を招く。サイアム・ディスカバリー:日本の設計事務所であるNENDOが手掛けた改装。建物全体を無数の箱に見立てた設計だ。新たに吹き抜けを設けて可視性を強化。内装も殆ど手掛けており、テナントが変わってもデザインが残るように意図されている。改変はされたが当初の意図は残っており、内装の教科書的なモール。ワン・バンコク:六本木ヒルズから始まった弁当型開発の典型。美術館、オフィス、ホテル、会議場、モール、アート空間と全体で一つの都市を構成している。弁当型開発はそこに内包される用途は似通っているが、構成や意匠を変える事で独自性を生んでいる。ドゥシット・セントラル:タイ最古の公園であるルンピニ公園の手前にあり、BTSとMRT駅とも直結しており、地の利があり、タイを代表するドゥシット・ホテルと一体化した開発になっている。内部は特記する事は少ないが、このモールを特別なものにしているのが屋上庭園だ。これによりルンピニ公園との一体感を齎し、宛らニューヨークのセントラルパークにいるかの様な都市美観が体感出来る。コモンズ・トンロー:通常モールとは利益率を最大化する為に商業空間の面積を最大化する。コモンズはその逆を行っており、非商業空間である通路を拡張して広場の様に設計した。その結果、訪問者は広場に滞留する様になり、それを囲む飲食で消費をする。より高い賃料を払っても、それを回収できる空間設計をする事で魅力的な商業空間を作り出した稀有な例。