タイ国の街、例えばバンコクやチェンマイを歩いていると色遣いが鮮やかで、魅惑的、可愛げのある、グラフィック、壁画、インテリアやプロダクト等が目に入る。タイ国は世界的にはまだ認知されてはいないのだがデザインに対して並々ならぬエネルギーを注いでいる国の一つである。今回はバンコク・デザインウィーク2025を切り口としてタイのデザイン事情を著してみたい。当方は只今、チュラロンコン大学の国際建築学科(INDA)にて教鞭を執っており、毎年百人以上の生徒を担当している。タイ人の生徒達を教えていると彼らは幾つかの点で他国の生徒よりも優れている。先ずは圧倒的な色彩感覚。これは南洋の強い光の中で育まれた美意識だろう。赤道に近い地域では太陽の運行が一年を通じてそこまで大きく変わらない。その為、光の状態が通年単調に成り勝ちである。ゆえに赤道に近い地域では自然環境はコントラストの強い色彩を有しており、そこに住む人々も生活の中に色彩を持ち込む傾向がある。タイではその傾向が顕著であり、色遣いの妙に優れている。生徒の作品を見ていると色彩感覚とは別にグラフィックを魅せる感覚も優れている。その感覚の原点を探ると壁画文化に辿り着く。日本の仏教寺院を訪れると簡素で年季の入った木材や苔むした石庭を思い浮かべるだろう。逆に仏教世界を視覚化する様な場所は余りない。日本は古来から良質な水源と木材に恵まれていた。その環境のお陰もあり、紙の生産が進み識字率の向上に貢献した為、文字情報を通じた想像上の仏教世界が発展した。対してタイにおいては文字情報の代わりに色彩豊かな壁画で仏教世界を具象化してきた。そういう背景からグラフィックで情報を伝えるという感覚が定着していているのだろう。そのような背景のあるタイ国ではBCG(バイオ・循環型・グリーン)経済を2018年より促進している。その中にあるCEA(Creative Economy Agency)という同年に発足した若い政府機関がデザインを通じたBCG経済の活性化に力を注いでいる。バンコク、チェンマイ、コンケーンにはTCDC(Thailand Creative & Design Center)が設けられておりデザイン関連の様々な活動をサポートしている。中でも2018年より始まったBANGKOK DESIGN WEEK(BKKDW)は毎年テーマの異なる公募を通じて数多くのデザイナーに作品を発表する機会を提供している。そもそも、BCG経済がなぜ必要なのかと言うと、タイは数多くの環境問題に直面しているからだ。それらは住環境、ひいては健康に悪影響を及ぼしている。デザイン関連で言うと、ごみ処理が大きな課題となっている。ごみの多くが中途半端に処理をした状態で埋め立てられており、環境問題に発展している。そこで、CEAはBKKDW等を通じて、何らかの形でBCG経済にコミットした作品をエデュテインメント(娯楽を通じた教育)として既存の都市を舞台に紹介する事で一般の関心を集める努力をしている。当方は2021年、2024年、2025年とBKKDWにて作品を展示した。2024年の展示は当方の集大成となったプリズムを用いた実験的なパビリオンを提案した。これは新規の夜間照明を用いることなく、既存の都市照明をプリズムを通じて楽しむというもので、現在はパフラット花市場に寄贈されている。2025年のBKKDWでは、チュラロンコン大学工科学科と共同で廃棄処分されたソーラパネルを再利用した新素材を開発し、それを建築的に提案した。それらの新素材は光を複雑に反射、屈折する為に既存の景色がモザイク化してプライバシーが守られる。作品の効果を最大化するべく、タイの名所である巨大ブランコの前に設置され、会期後はさくらキッズこども園に移設された。今年のBKKDWでは他にも再利用されたプラスチックで編まれた巨大なカーペットをオランダの世界的に著名な建築事務所MVRDVが設計した事でも話題になった。展示ブースではプラスチックを利用したプロダクトや建築が紹介されていた。BKKDWの作品の多くが旧市街に集中している。それらは旧市街に色彩、グラフィック的楽しさを提供し、古建築の再利用やBCG経済の思想を広く知らしめる事に貢献している。BKKDWはタイ国がデザイン大国として大成する萌芽が垣間見える。