誰もが一度は風水の事を聞いた事があると思う。日常生活に既に取り入れている読者もいるかも知れない。風水とは良い気を日常に取り込む為の道教の思想の一つで、中華系で広く実践されている。東南アジアでは中国との交流が盛んな為、風水は古くより取り入れられて来た。タイ、ことバンコクにおいては風水の実践が顕著である。風水は四種類ある。物理的な周辺環境から気の流れを調整する「巒頭(らんとう)」、所有者の生年月日などを元に吉凶を占う「本命卦」、「陰陽」の八卦により敷地を分割、八卦の中に宿る「五行」という火、金、木、水、土の循環。これらの四つの要素は家の敷地における吉凶の状況を明らかにしてくれる。バンコクの旧市街に当たるヤワラート界隈を歩いていると八卦の飾りが至る所に見られる。それらは「らんとう」の解釈で敷地条件から発生する悪い気を希釈する役割を果たしている。例えばT字路があったとする。道が交差する箇所は「槍殺」と呼ばれ人間関係の悪化や病気を招くと信じられている。そういう道には殆ど決まって八卦の鏡が設けられており悪い気を跳ねのけようとしている。更に都市スケールでも「らんとう」は応用されている。「鎌刀殺」という考えでは川や道路で凹状になっているカーブの外側には圧迫感を受けるという風に言われている。最たる場所はサパーン・タクシン界隈で今も廃墟として残っているサトーン・ユニークタワーは風水的に言えば最悪の場所と言える。また、たった15年で滅びたタクシン王朝のあったトンブリも同様の説明が出来そうだ。逆に凸状になっているカーブの内側は吉兆の場所であり、今もラタナコシン王朝が続いている。著者の作品の紹介をしたい。TimeOut誌にて世界で最もクールな地域として取り上げられたソンワット通りにある某ショップハウスの改装をした。貿易が盛んだった為、中華系、イスラム系、インド系等が多く住んでいる。中華系のオーナーの強い意向で古い建物の改修をする際に風水のコンサルテーションも行った。過程としては最初に「らんとう」を用いて敷地に想定される悪い気を鑑定、建築的な対処法を提案する。更に「本命卦」を用いて三代先のオーナーの持つ八卦の吉凶を調べる。「八卦」を用いて敷地を八等分にして、世代ごとに良い気がオーナーの占有するエリアに集まるように計画をした。良い気の集まる所は「五行」を元に力を増強するような素材を提案した。逆に悪い気の集まる所は水回りや倉庫を設ける事で影響を削ぐようにした。とはいえ、世代ごとにエリアの吉凶や五行の属性は変わるので水回り関係などの設計は難しい。中華系の内装は場所により属性が変わるために目まぐるしく変わる事が多い。アジアの都市は中華系の影響が強い為に大小の様々な風水の記号が隠されている。香港やシンガポールは都市景観、計画、更には法規のレベルまで風水を取り入れている。特にシンガポールは建前としては多民族共生を提唱しているので、表立っては言わないところが面白い。バンコクも中華系が多い地域では風水が実践されており、それらを読み解く事で都市のまったく異なる表情をうかがい知る事が出来る。