「市場(タラート)」と呼ばれる彼女はタイ人の中でもレベルが高いと思うけど、実際タイは日本に比べて友人間などでの物の売り買いが気軽に行われる。「これ買わない?」や「それいいね! 売ってくれない?」。双方に嫌悪感がまるでないのがすごいなと思ってしまう。だから手作り弁当が30バーツでも驚きはしなかったけど、そのタイらしさに思わず笑ってしまった。同僚に手作り弁当を売るという発想に馴染みはないが、タイなら「なるほど」と納得できる。 子どもたちがバンコクの学校に通っていたころ、小学生だった長男は自分が遊ぶために持っていった折り紙を一枚1バーツで友だちに売っていたことがある。授業で作った編み物の作品も、友だちが欲しがったので売ったそうだ。そんな経験が皆無だった私にはなかなかのカルチャーショックであった。 次男は「授業中にピアスを売りに来た上級生」から、何故か無料でピアスをもらって帰ってきた。流行りの物をたくさん買って来て学校で売る、家庭科で作ったお菓子を校内で売る、なんて話も聞いた。勤務先の部下は、娘が学校で「好きな人にバレンタインのプレゼントを渡す代行」を60バーツで請け負っていたと笑っていた。 いやもうほんと、私の育ってきた環境との差よ。「友だちからお金を取る」ことのハードルが段違い。価値観も違うのだろう。良いと思えば人に勧めるし、欲しければ買い、そうでなければ買わない。驚きはするけれど構造はシンプルである。もちろん何でもお金を取る訳ではない。私は今まで数えきれないほどタイ人にご馳走になったりプレゼントをもらったり、子どもに与えられるお菓子に至っては把握すら難しかった。そして困っている人がいれば皆こぞって寄付をする。困っている人をメディアが取り上げその人の口座番号が公開され、たくさんの寄付が集まったというニュースを見た時もさすがタイランドだなと感服した。 「売る」と「あげる」の境界線はあるんだろうか。なんて、タイで育っていない私が考えてもわからない、自然と身につく感覚なのだろう。 労働には対価が必要で、サービスは無料ではない。他人の時間や手間を搾取しない。私がこれらを意識するようになったのはずいぶん大人になってからだ。タイのこの幼少期からの気軽な売り買い文化、「友だちなんだからタダにして」なんて言い出さなそうなところはとてもいいと、そう思う。「ゆるぬりタイランド」全話一覧ページは↑バナーをクリック!➡「ゆるぬりタイランド」次のエピソードはこちら