タイの朝の景色には、托鉢するお坊さんがいる。道端で靴を脱いで跪き、お坊さんにタンブンする人を見たことがある人も多いのではないだろうか。「タンブン」は徳を積む行為全般を指す。僧侶への喜捨、寺院への寄付、困っている人や弱い人を助ける、動物を慈しむ。瞑想もその範囲だそうだ。仏教国のタイでは輪廻転生も信じられている。施すことで徳が積まれ、幸せな来世に恵まれる。また現世でも、善行により自分の心が豊かになり、善い行いは未来の自分に返ってくるという考え。私は無信仰だけどタンブンは好きだ。この「自分の心が豊かになる」は少しわかる気がするから。タイ人がよく口にする「タンブン」という単語も移住してすぐに覚えた。日本人の友人間でも、人に何か物をあげる時や、外で食べ物を落とした時まで「タンブン」と言うようになった。ノンカイのホームステイ先の管理人さんは毎朝お坊さんへのタンブンをする人で、そのために毎朝もち米を炊いていた。それまでタンブンする機会があればそのもち米を分けてもらっていたけど、「自分で作らないとあまり意味がない」と言われ、長男の誕生日に自力でのタンブンに初挑戦することに。ちなみにもち米でなければいけない訳ではない。食べ物でも飲み物でも、買った物でも自分で調理した物でも良いし、日用品などでも良い。まだ暗いうちに起きて、寝る前に水に浸けておいたもち米を竹でできた蒸し器で蒸す。途中で籠の端を持って中身をひっくり返し、蒸しあがったら布の上に蒸したもち米を広げ、冷ます。もち米用の籠に入れて完成。それと小さな袋のお菓子とジュースを細工が施された銀色の水桶に入れて息子に持たせ、道端でお坊さんを待った。これらの道具全てが可愛らしく見えたことと、タイですっかりもち米が大好きになった私は、後に市場で蒸し器セットと籠を購入した。タンブンする物を入れる用に買った銀色の水桶もとても気に入っていた。時は流れ、私も都会へ流れ会社員として働くようになり、通勤途中にお坊さんを見かけても足早に通り過ぎるようになってしまった。お寺にも滅多に行かない。無職の田舎暮らしと都会の会社員生活は、当たり前だけど全然違う。あの環境を経験できたことが嬉しいな、と思う。タイに、そしておそらくノンカイに住まなければ一生手にすることのなかった道具や、遠くから歩いてくるお坊さんを待っていたあの早朝の空気を、裸足で感じる地面の感触を、時々なつかしく思い出す。「ゆるぬりタイランド」全話一覧ページは↑バナーをクリック!➡「ゆるぬりタイランド」次のエピソードはこちら