有難いことに、先日書籍を出版することができた。その作業にあたり表紙用に「私が思うタイっぽい風景」のイラストを描いてほしいと言われ、思い浮かんだのがノンカイのアパートでゴザを敷いてみんなで飲み食いしている風景だった。ちなみにカバーには「アジア!って感じのごちゃごちゃした市場」を、編集側からリクエストされた。「〇〇っぽい」と言われて浮かぶ風景は、その人の経験に基づくんだろうな。なんて当たり前だけど普段は考えないようなことを思った。ノンカイで初めて自分で借りたアパートでは、敷地内の地面や、大家さんや友だちの家の床で毎日のように集まって食べたり飲んだり。アパートの住人だけの時もあれば大家さんや住人の家族や親族、友人が参加することもある。通りかかれば呼ばれるし、通りかからないと部屋まで呼びに来る。外にゴザを敷いてごはんを食べるのは特別なイベントだったけど、あのアパートに引っ越した途端毎日がピクニックみたいな生活になった。一般的なタイの人たちはこのスタイルで食事をするのだなと思ったし、こうしてみんなで食べるのが好きなんだなと思った。とは言え素敵なお部屋の「応接セットのテーブルの前の床」にごはんを広げる様子はカルチャーショックだったし、何より微笑ましかった。私だったらちょっとかしこまってソファーに座って食べてしまいそうだけど、やっぱり床だよねぇ。そしてきっと私以外誰もなんとも思っておらず、どんな部屋だろうが関係ないという空気がまた良かった。そんなノンカイから引っ越してきたバンコクは本当に何もかもが違って、以来私はゴザで食事をすることはなくなった。お手頃なアパートに住んだこともあるけれど、共用スペースにゴザを敷いて食事する人を見かけることも、「ハローあなた日本人?」と突然誰かが訪ねてくることもなかった。私が経験したあの日々は、あのアパートの造りや居合わせた人の性格、場所柄など様々な要因から生まれたものだと思い至るまでに時間はかからなかった。巡り合わせ、というのはおもしろい。何かが少し違っていたら出会えなかったことがたくさんあって、今ここでこうしているのも小さな奇跡とご縁の積み重ね。もしも今ノンカイに戻ったとしても同じ経験は絶対にできないし、恋しく思うことはあるけど今の生活には満足している。移ろいゆくあれやこれや。数年後、数十年後、「タイっぽい」と言われて頭の中に浮かぶのは、一体どんな景色だろう。「ゆるぬりタイランド」全話一覧ページは↑バナーをクリック!➡「ゆるぬりタイランド」次のエピソードはこちら