タイで暮らすようになってはじめての年末、日本に住んでいる幼馴染がバンコクに遊びに来ると聞いて会いにいくことにした。タイ東北部にある国鉄ノンカイ駅から出る寝台列車。長男にとっては生まれてはじめての、私にとっては海外ではじめての寝台列車の旅。当時3歳の長男との移動は、正直楽しみよりも不安の方が大きかった。寝てくれるかな。騒がないかな。周りに迷惑をかけないだろうか。そんなことを考えていた気がする。気がする、と記憶が霞むぐらいには、タイに慣れてしまって甘えている私がいる。子どもが騒いでしまっても全然平気とまではさすがにいかないけど、ずいぶん昔に日本で子育てしていた時のようなヒリヒリする緊張感はなくなった。はしごを見るなり3歳児のテンションが上がるのは予測済みだったけど、窘めるのを手伝ってくれるはずと期待していた車掌さんに裏切られることは予想できなかった。落ちないように下で支えたり、だっこして降ろしてはお菓子やタブレットで釣ろうとしてみたり。そんな私たちに通りかかる車掌さんたちがにこやかに声をかけてくれて、他の乗客もあたたかい眼差しを向けてくれた。なんだか気が抜けたのを覚えている。無事に朝を迎え、車掌さんの「ガッフェ~、ガッフェ~(コーヒー)」というダミ声でカーテンを開けた。ふだんは甘いコーヒーを飲まないけど選択肢がないし、けれど列車の窓の外を流れていくのどかな風景を眺めながら飲む3 in 1コーヒーは何故かおいしい。車掌さんが慣れた手つきで次々とベッドを座席に変えるとあっという間にふつうの列車になって、上のベッドだったお姉さんと向かい合わせに座る。向かい合わせに座ったのは私だけで、招かれた長男はお姉さんにくっついてスイカをほおばっていた。気がつくと違う席のお姉さんの膝の上でお菓子を食べていたりと、とにかく自由である。「グッモーニン!」と車掌さんがやってきて、座席の手すりに座って長男とお客さんと談笑する様子には思わず顔がほころんだし、スマホで音楽をかけながら一緒に踊ろうとやってきた時は爆笑してしまった。楽しそうに踊る車掌さんと3歳児。列車で踊るなんて危ない。そんなことはわかっていて、少し揺れると周りの人みんなが長男に手を差し伸べる。なんてゆるくてあたたかいところなんだろう。勢いで見知らぬ場所に移住してみたけれど、この環境は神様からのプレゼントかもしれない、と思った。「ゆるぬりタイランド」全話一覧ページは↑バナーをクリック!➡「ゆるぬりタイランド」次のエピソードはこちら